高血圧
A. 高血圧とはなにか。
2017年に発表された米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)高血圧ガイドラインでは、
一般成人の高血圧の診断基準が従来の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に引き下げられ
降圧目標は130/80mmHg未満とすることが推奨されています。

これに伴い、日本での診断基準も2019年に改訂され、2014年の診断基準と比べて
高血圧の基準値は従来通り140/90mmHg以上と変わりませんが、

       JSH2014              JSH2019
・至適血圧:120/80mmHg未満       →正常血圧:120/80mmHg未満
・正常血圧:120〜129/80〜84mmHg   →正常高値血圧:120〜129/80mmHg未満
・正常高値血圧:130〜139/85〜89mmHg→高値血圧:130〜139/80〜89mmHg

と厳格化されています。実際、N Engl J Med. 2015 Nov 9.の
「A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control.」
では、血圧目標値を120mmHg未満にすると死亡リスクが0.73倍に減ると示されました。

B. 原因は?
原因には、他に誘因がない本態性高血圧と、
何らかの病気の結果として起こる二次性高血圧があります。
二次性高血圧の原因には、以下の病気があげられます。
睡眠時無呼吸症候群、慢性腎疾患、原発性アルドステロン症、
腎血管性高血圧、褐色細胞腫、大動脈縮窄、甲状腺又は副甲状腺疾患、
クッシング症候群、薬物誘発性。
血液検査などである程度は診断が鑑別できます。

C. 高血圧はなぜ治療しなければならないか。

高血圧の合併症を予防するためです。
今は大丈夫だと思っていても、50歳〜80歳頃になってから、
脳卒中、心筋梗塞、心不全といった恐ろしい病気になる可能性があります。
治療により、それぞれの発症低下率は脳卒中では約40%減、心筋梗塞では25%減、
心不全では50%減
というデータがあります。

D. 高血圧の治療(食事と運動、生活)

一般的な高血圧の原因は、遺伝、塩分摂取過多、肥満などいろいろです。
目標の塩分は一日 5g です。しかし、日本の食事でいきなり5gは難しい。
出汁をしっかり取るなどの工夫が必要です。僕の外来では先ず8gに目標を設定します
肥満傾向の方はカロリー制限と有酸素運動が必要です。
全てをここに書くことは困難ですので、栄養士にご相談下さるか、
書店や図書館で参考となりそうな本を手に入れて下さい。

運動は特別なことを必要としません。軽く汗ばむ程度の歩行や自転車こぎを
1日30分程度続けて下さい。根気、忍耐(?)が必要です。

煙草は血圧を上げるだけでなく、合併症の危険性を2〜4倍にします。
この文章を読まれているあなた、猛毒を吸う行為は今すぐやめて下さい。
タバコの煙には、豆練炭と同じ一酸化炭素が大量に含まれ、
ニコチンと併せて血管の壁をぼろぼろにします。
老化を促進し、皮膚のしわや脱毛も促進します。
(日本循環器学会は、心臓や血管の病気の予防のため、医師による
担当患者さんへの禁煙の指導を義務付けております。
当院に心筋梗塞になって救急搬送された方の90%程度が喫煙者でした)


アルコールは日本酒換算で一日一合程度まではかまいませんが、
多量飲酒は血圧を上げるだけでなく、肝臓、脳にも危険です。

E. 高血圧の治療(くすり)

いろいろな薬が使われています。大きく分けて
1)血管を広げるもの、2)塩分を追い出すもの、3)脈拍を少なくするもの、
に分けられます。患者さんの背景や血圧の程度に応じて
1〜5種類の併用が必要となります。
自分がどんな薬を飲んでいるのかは、主治医に聞いてみて下さい。
それぞれのお薬で色々なエビデンスと自分の経験からは、
カルシウム拮抗薬:アテレック(シルニジピン)不安時や興奮時の血圧上昇も抑える
ACE阻害薬:コバシル(ペリンドプリル)
 脂溶性で認知症進行防止や生命予後改善強い
ARB:オルメテック(オルメサルタン)
ACE2に関与、アルドステロンブレークスルーが少ない
利尿薬:ナトリックス(インダパミド)
 1mgでしっかり塩を排泄
が一押しです。他院の薬が効かない時も上記に変更で劇的に血圧が下がることがあります。

F. 血圧の自己測定

健康のバロメータとしても役に立ちますので、
朝夕の食前にリラックスした体勢で、上腕血圧を測定して下さい。
血圧計のメーカーは問いませんが、
指や手首のものは不正確となることもありますので、
必ず「上腕用」を手に入れて下さい。

<注意事項>血圧を測って心配になって、繰り返し何度も測って、
数十も並んだ数字を握りしめて外来診療にいらっしゃる方がいますが、
いくら測っても血圧が上がるだけで腕の血管や筋肉も傷みますので、
測りすぎに注意して下さい。